中国・台湾から日本へ——なぜ移住希望者が増えているのか

中国・台湾から日本へ——なぜ移住希望者が増えているのか

ここ数年、中国や台湾の人々の間で「日本に住みたい」という声が強まっている。観光目的ではなく、実際に移住先として日本を選ぶケースだ。単なる親日感情や観光人気にとどまらず、社会や経済の事情が背景にある。現地で暮らす人々の声や統計を手がかりに、その理由を探ってみたい。

日本法務省の統計によると、在留外国人の数は年々増加しており、中国と台湾出身者は常に上位を占める。特に近年は「移住目的」の相談件数が増えていると、行政書士や移住サポート業者も報告する。観光立国の日本というイメージの裏に、生活拠点としての魅力が浸透してきているのだ。

理由1:社会の安定性と治安の良さ

多くの中国人や台湾人がまず挙げるのは「治安の良さ」だ。日本は先進国の中でも犯罪発生率が低く、夜に一人で出歩いても安心できる都市が多い。政治的にも安定しており、大きな混乱や政変のリスクが少ない。

中国本土では経済成長の陰で社会不安が強まり、監視社会への不満もある。台湾では政治的に不透明な将来への懸念が根強い。こうした背景と比べたとき、日本は「安心して子どもを育てられる場所」と映る。

理由2:教育環境と将来への安心感

教育を理由に移住を考える家庭も多い。日本の学校教育は規律や基礎学力を重視し、学費も欧米に比べれば安い。大学進学まで見据えると、日本で育つことが子どもの将来にプラスになると考える親は少なくない。

また、日本の医療制度や社会保障への信頼も大きい。台湾も医療制度は整っているが、中国本土では地域格差が大きく、質の高い医療を受けるには高額の費用がかかる。日本の国民皆保険制度は、外国人から見ても「安心材料」となっている。

理由3:文化的な親和性

欧米移住を考える人も多いが、日本が選ばれる背景には文化的な近さもある。食文化や生活習慣に共通点が多く、言語も漢字を通じて学びやすい。実際に生活を始めても「異国の壁」が低く感じられる点は大きい。

台湾では日本の音楽やドラマ、アニメが根強く支持されており、「日本で暮らすことが夢だった」と語る若者もいる。中国でも同様に、日本製品や日本の生活様式に親しみを持つ層が一定数存在する。

理由4:不透明な経済・政治への不安

経済的な要因も無視できない。中国はかつて「成長の象徴」だったが、近年は不動産市場の低迷や失業率の上昇が顕著だ。将来の経済見通しに不安を抱いた中間層が、安定した暮らしを求めて海外に目を向けている。

台湾でも、米中対立や台湾海峡をめぐる緊張が続き、将来へのリスクを見越して移住を検討する人が増えている。日本は地理的に近く、家族との往来も容易であるため、「一時避難先」としても現実的だ。

日本側の受け入れ状況

一方、日本政府は少子高齢化による労働力不足を背景に、外国人受け入れを拡大している。技能実習制度や特定技能制度、留学生の受け入れ強化など、法制度面でも移住のハードルは下がりつつある。

ただし、永住権の取得には年数や条件が必要であり、言語や職の確保といった課題は残る。それでも「日本なら努力すれば暮らしていける」という安心感が、中国・台湾の移住希望者を後押ししている。

中国や台湾の市民が日本移住を望む理由は、単なる観光人気や親日感情にとどまらない。